東京地方裁判所 平成8年(行ウ)5号 判決
原告
関根重信(X1)
同
帯刀徳明(X2)
右両名訴訟代理人弁護士
関哲夫
被告
(葛飾区長) 青木勇(Y1)
右訴訟代理人弁護士
山下一雄
被告
(葛飾区議) 清田直(Y2)
右訴訟代理人弁護士
加藤晋介
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
二 本件接遇は社会通念上儀礼の範囲を超えたものであるかについて
1 地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして、許容されるというべきであるが、それが公的存在である地方公共団体により行われるものであることからすれば、対外的折衝等をする際に行われた接遇であっても、それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないというべきである。
この理は、地方公共団体の長が、当該地方公共団体の議会の議員を接遇する場合においても妥当するというべきである。すなわち、確かに、地方公共団体の執行機関である長と議会とは、法に定められた諸種の権限を行使することによって相互に牽制し合う立場にあるが、その間においても、普段から十分な意思の疎通を図るべき必要があることは否定できないから、地方公共団体の執行機関が、そのような目的のために当該地方公共団体の議会の議員を招いて意見交換を行い、また、その際にできるだけ率直に話し合いができるように飲食等の接遇を行うことを、一切許されないものと解するのは妥当ではない。もとより、公金を使用しての接遇は、それ自体積極的に奨励すべき事柄とはいえないとしても、社会通念上の儀礼の範囲内にとどまる程度のものである限り、法上許されるものと解するのが相当である。
さらに、長年にわたり区議会の議員として活躍し、区政に多大の貢献をした者が、その功績により表彰されるなど特別の事があった場合において、地方公共団体の長が、その機会をとらえ、その者に対し、祝意を表し、感謝とお礼の意を示すため懇談会を開催し、社会通念上儀礼の範囲内にとどまる程度の接遇を行うことも、円滑な区政の執行に寄与するものとして許容されるべきものと解される。
そして、右のような接遇が社会通念上儀礼の範囲内のものであるか否かは、(1) 接遇の趣旨・目的、(2) 出席者及び出席人数、(3) 接遇の場所、(4) 接遇の内容、程度及び費用等を総合的に考慮して判断すべきである。
原告らは、地方公共団体は首長制(大統領制)を採用しており、その長と議会とは権力分立の関係にあり、議会の議員も、議会の構成員として、長から一定の距離を保ち、主権者たる住民のために長が違法不当な行為に出ないよう監視し是正する重要な責任を負わされていること、区長が区議会議員の意見を聞く機会は、予算・決算委員会、常任・特別委員会と同理事会等いくらでもあり、議会以外の場所で非公式に話を聞く必要があるのならば、区長室や区役所の会議室があるのであって、右目的のために、夜、料亭で酒食を共にしなければならない必要はないとし、地方公共団体の長がその議員を料亭で酒食をもって接遇することは、執行機関と議決機関との触れ合いをもたらし、不明朗な癒着の原因となるから、厳に慎むべきである旨主張する。
しかしながら、地方公共団体の長がいかなる者とどこで会合を持ち、意見を徴するかということについては、その政治判断に基づく一定の裁量があるものと解されるところ、長が議員を接遇することも、社会通念上の儀礼の範囲内にとどまる程度のものである限り、右裁量の範囲内のこととして法上許されると解すべきことは右に説示したとおりであり、原告らの右主張は、採用することができない。
2 前記第二の一の前提となる事実に〔証拠略〕を併せれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件接遇の出席者及び出席人数
(1) 本件接遇に出席したのは、被告青木、被告清田、清田夫人及び南部室長の四名であった。
(2) 被告青木は、昭和三六年四月以来区に勤務し、企画部長、総務部長、厚生部長などを歴任した後、平成三年一二月から平成五年一一月まで区の助役の地位にあった。
被告青木は、平成五年、区議会が当時の出口区長の不信任決議を可決したのを受け、同年一二月、区長に立候補して当選し、本件接遇当時も、区長の地位にあった。
(3) 被告清田は、昭和三八年五月一日以来連続して区議会議員の職にあり、本件接遇当時、その議員在職年数は八期三一年に及んでいた。
そして、昭和四八年に区議会副議長に就任したのをはじめ、数次にわたり総務財政委員会委員長、文教委員会委員長、区民委員会委員長を歴任したほか、各種特別委員会の正副委員長等の職責を全うし、こうした功績を背景として、昭和四八年に自治功労表彰、昭和五七年に区制施行五〇周年記念表彰、昭和六三年に議員在職二五年表彰、平成二年に藍綬褒章、平成五年に議員在職三〇年表彰をそれぞれ受けた。
(4) 南部室長は、本件接遇当時、区総務部参事・区長室長事務取扱として区長室長の事務を執っていた。
区長室長は、区長の秘書業務及び儀礼・交際に関すること等が主な仕事であり、区長に代わって対外的な折衝を行ったり、会合等を設定したり、設定した会合等に区長と同席すること等も仕事としていた。
本件接遇に際しては、助役車で被告清田らをその自宅まで迎えに行った後、被告清田らと共に本件接遇に参加して司会を務め、冒頭の挨拶等をし、本件接遇後は、区長車で被告青木と共に帰宅した。
(二) 本件接遇の趣旨・目的
(1) 被告青木は、区長就任二年目を迎えるに当たり、様々な人から多くの意見を聞き、これらを基に新たな政策を掲げ、区民福祉のより一層の向上を図ることを課題とし、現実にも、与党連絡会や各種団体等と多数回にわたる会合をもっていた。本件接遇は、右課題を解決するための一環として、長年にわたり区議会議員の職にあり経験豊富な被告清田に、今後の区政の運営について示唆を受けようとしたこと(本件第一の目的)及び被告清田が平成五年に区議在職三〇年表彰を受けたことに対するお祝い、すなわち、同人の区政に対する長年の貢献に感謝し、同人に対しお礼の意を表すること(本件第二の目的)を目的としていた。
(2) 被告青木が被告清田と個別に会合をもった理由は、<1> 被告清田は区議会随一の経験を有し、円滑な区議会運営と区政の伸展に寄与した実績があり、新たな政策を展開するためには、その豊富な議員経験に裏付けられた区政に対する幅広い意見を聞く必要があったこと、<2> 与党連絡会において、これに参加する議長、副議長及び与党幹事長からは、今後の区政運営について、その意見を聞くことはできるが、被告清田はこれに含まれていないので、個別の機会を設ける必要があったこと、<3> 経験に裏付けられた被告清田の視点と若手議員の意見とは、自ずから異なるため、それぞれの意見を聞くためには、別個の機会を設ける必要があったこと、<4> 被告清田は、被告青木が区議会の各会派からいわゆる「青木カラー」を出すべきであるなどといった指摘をうける前から、区の部長クラスの職員に対し右指摘と同様の意見を示唆していたこと、<5> 新小岩駅周辺の再開発は区の重要な施策の一つであったところ、被告清田は、区内有数の商業地区である新小岩地区を地盤としていた上、かつて株式会社マルエツが東新小岩五丁目の「みのり商店会」に大型店舗の開設を計画した際、大型店舗進出対策交渉委員長として、地元商店会の意見を取りまとめ、その団結を確固たるものとして、今日の地元商店会の発展の礎を築いたという実績があり、区においても被告清田のこのような実績を評価していたこと、<6> 区が新たな施策を展開するために、同地区の再開発をも視野に入れつつ、地元の意見を被告清田から聞くことが望ましいと考えられたことによるものである。
(3) 被告青木が本件接遇に清田夫人を招待したのは、<1> 区では、従前から議員が区政に関する功績により大きな表彰を受けたときは、当該議員とその夫人を共に招いてお祝いの会を催していたこと、<2> 被告清田は、区議在職三〇年の表彰を受けた数少ない議員の一人であり、しかも、これまでの区政への貢献が多大であったところ、これについて清田夫人の内助によるところが大きいと考えられたこと、<3> 清田夫人自身も、区議の妻として、主婦層をはじめ商店主や高齢者等地域住民の意見や要望をきめ細やかに聞き、被告清田が不在の折りには、同人に代わって地域住民の陳情を受けるなど、地域の実情に精通していることから、清田夫人の意見を聞くことは区政にプラスとなると考えたこと等の理由によるものである。
(三) 本件接遇の場所
(1) 本件接遇は、東京都台東区雷門にある料亭「茶寮一松」の本館で行われた。なお、右本館と浅草通りをはさんだ反対側に茶寮一松の別館がある。
茶寮一松へは、被告青木は区長車で、被告清田、清田夫人及び南部室長は助役車で行った。なお、区長車の運転手穂戸田繁及び助役車の運転手梁取敏博は、本件接遇の間、右別館において、夕食として用意されていた弁当(一人当たり三〇〇〇円)を食べ、その後本件接遇が終了するまでそれぞれの車において待機していた。
(2) 本件接遇の場所として茶寮一松が選ばれたのは、本件接遇には、被告清田が議員在職三〇年の表彰を受けたことのお祝いをするという目的(本件第二の目的)もあったため、通常の区政懇談会と同様の接遇では礼を失するとの配慮から、格式のある店で丁寧な接遇を心掛けるのが好ましいと考えられたこと、三〇年もの議員在職年数を有する区議は、今まで数人しかおらず、しかも、被告清田のこれまでの区政に対する貢献は甚大であったことから、最大限の感謝とお礼の意を表する必要があったこと、かつて被告清田が藍綬褒賞を受けたときも、清田夫人と共に茶寮一松に招いてお祝いの会を開いたことがあったこと等の理由によるものである。
(四) 本件接遇の内容・費用について
(1) 南部室長は、本件接遇に当たり、担当係長に対し、同接遇が通常の区政懇談会とは異なり、前記お祝いの趣旨を兼ねたものであって清田夫人も参加するものであるから、その趣旨に沿うよう季節料理(ふぐ料理)を注文するように指示した。
(2) 本件接遇にかかった費用は、合計で一二万六九八八円、運転手の弁当代六〇〇〇円を除くと一二万〇八〇八円(一人当たり三万〇二〇二円)であり、その内訳は、
<1> 料理代 九万円
出席者の料理代(四名) 一人当たり二万一〇〇〇円
運転手の弁当代(二名) 一人当たり三〇〇〇円
<2> ビール代(五本) 三五〇〇円
<3> 日本酒代(九本) 四五〇〇円
<4> ひれ酒(六杯) 六〇〇〇円
<5> ウーロン茶(二杯) 八〇〇円
<6> 奉仕料 一万五〇〇〇円
<7> 消費税 三五九四円
<8> 特別地方消費税 三五九四円
である。
3(一) 原告らは、本件接遇の出席者が、被告青木、被告清田、清田夫人のほか、被告清田の二人の息子であった旨主張するところ、本件支出原議、本件物品購買決定通知書及び本件請求書部分等には本件接遇に出席した者の人数が「五名」であるかのような記載がある。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 区における支出を伴う契約行為の通常の手続は、<1> 主管課において予定される会議等の開催、経費の支出等について、起案文書により決裁を受ける、<2> 右決裁終了後、契約等の支出負担行為を行うために支出負担行為者に対し、「物品購買請求書」の送付により契約の締結に関する請求を行う、<3> 契約主管課において、見積書等の徴取等、契約を締結するための必要な手続を行い、「物品購買決定通知書」により主管課へ通知し、併せて、支出命令書、請書、請求書等を兼ねた「兼用支出命令書」を送付する、<4> 会議等の実施及び支出に係る契約内容の履行が行われた後、主管課において契約内容の履行確認を行い、<5> 支出命令権者が右<3>の「兼用支出命令書」により、収入役に対し支出命令を行い、収入役において相手方業者に対し支払う、というものである。
(2) ところで、飲食を伴う会合における食糧費の支出の場合には、契約の内容である当日における飲食物の数量が、実施する当日まで確定することができないという特別な事情がある。他方、事前に契約を締結する必要があるという区の会計上の制度との整合性を図る上から、区においては、右(1)の通常の手続とは異なり、契約の内容(飲食物の数量)が確定した後に支出原義の作成、決裁と購買請求を行う取扱いをしている。すなわち、<1> 主管課が、事前に会場を確保し、契約の相手方である業者に料理等のおおよその金額、内容等を連絡する、<2> 会合の実施及び契約内容となる飲食物の給付が行われた後、主管課が、相手方業者に飲食代金を確認するとともに、相手方業者から請書及び請求書の部分を記入した「兼用支出命令書」を見積書等と併せて提出を受ける、<3> 右請求書及び見積書に記載された人数、金額等に基づいて、会合の実施日前の日付けで右(1)の<1>から<3>までの手続を行い、右手続に際して、主管課は、兼用支出命令書を併せて経理課に送付する、<5> その後、支出命令権者(本件では、区長室長の事務を取り扱う者)が、再送付された兼用支出命令書により支出命令を行うというものである。
(3) 本件接遇に係る食糧費の会計処理は、主管課である総務部区長室、支出負担行為者である同部経理課長、契約主管課である同課契約係において、右<2>の取扱いにより行われた。
そのため、本件請求書部分(同月二五日付け)に記載された本件費用の合計金額や内訳は、本件兼用支出命令書の請書部分に記載されている金額及び本件物品購買決定通知書に記載されている予定金額、内訳と一致している。
なお、本件支出原議中の「支出予定金額」については、前記(1)の通常の取扱いにおいて、「支出が予定される金額」が記載されていることから、本件接遇の実施後の起案の処理においても、契約締結の前後の整合性を図るために、担当者は、前記(1)の通常の取扱いに従い、実際に要した費用を五人という人数で割り返し、概ねその範囲で収まる金額ということで、「出席予定者 区長外四名 計五名。支出予定金額一四万円(二万八〇〇〇円×五名)」と記載した。
(4) 区において、文書の受発の番号は、文書件名登録簿により整理しており、収受番号及び発議番号を日付けを遡及して取ることは通常の処理においてはない。
しかし、起案をしておきながら発議番号をとり忘れた場合や、特定の日付けで文書を発しなければならない事情が事後に生じた場合等、手続上やむを得ず日付けを遡及する必要が生じる場合があり、そのような場合においては、あらかじめその事態を想定して、当該日付け分の欄を空欄にしておく方法や、記入漏れの形をとって、後から追記する方法が採られている。そのため、区長室における他の類似する案件の中には、会合等の支出原議を起案する前に他の案件の文書番号が取られたため、日付けが前後している例もある。
本件支出原議の発議番号については、たまたまその前後に起案等をした案件がなかったため、日付けの前後のずれは生じなかった。
右事実によれば、本件支出原議、本件請求書部分及び本件物品購買決定通知書に本件接遇の出席人数ないし出席予定人数として「五名」と記載されているからといって、必ずしも、現実に本件接遇に出席したのが五名であったということにはならないというべきである。
(二) また、〔証拠略〕によれば、読売新聞平成七年一〇月二六日付け夕刊には、区の被告青木区長が、平成六年一二月に当選九期目のベテラン区議(六八)無所属とその妻、二人の息子の四人を招待し、合計一二万六九八八円を飲み食いした旨の記事が掲載されている。しかしながら、いわゆる大新聞に書かれた記事のすべてが客観的な裏付けのある正確なものであるとはいえないことは、公知の事実である上、〔証拠略〕によれば、読売新聞社は、その後の同年一〇月二八日付けの新聞においても、右と関連する記事を掲載しているが、その内容は「青木区長は、二七日、…公費で区議夫妻と会合をもったことを認め」などというものであり、被告清田の「二人の息子」が本件接遇に出席したという点は記載されておらず、また、原告らが本件について監査請求をした翌日の平成七年一一月三日付けの読売新聞にその旨の報道がされたが、その記事においても、「二人の息子」が本件接遇に出席したなどの点は何ら触れられていないのである。したがって、平成七年一〇月二六日付け読売新聞の右記事のみをもって、被告清田の二人の息子が本件接遇に出席したと認めることはできないというべきである。
(三) 本件においては、本件支出原義等に本件接遇における出席者が五名であるかのような記載があり、読売新聞に前記の記事が掲載されたほかにも、出席者が四人であるとすると、酒の量がやや多すぎるのではないかなどの疑問があるが、前掲証人南部芳榮は、助役車で被告清田らをその自宅まで迎えに行った後、被告清田らと共に本件接遇に参加して司会を務め、冒頭の挨拶等をした、本件接遇に出席したのは前記2(一)(1)の四名であり、本件支出原議等は本件接遇後に日付けを遡らせて作成した旨、具体的かつ詳細に証言しているところであり、右証言を覆して、原告らの右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
4 以上を基に検討するに、被告清田は、本件接遇当時、連続八期三一年間にわたって区議会議員の職にあり、区において各種役員等を歴任したほか、自治功労表彰、藍綬褒章、議員在職三〇年表彰等を受けたベテラン議員であり、その区政に対する貢献は通常の区議と比較しても極めて高いものであったと推認されるところ、当時、被告青木は、区長に就任して二年目を迎えるに当たり、様々な人から多くの意見を聞き、これらを基に新たな政策を掲げ、区民福祉のより一層の向上を図ることという課題を実現するための一環として、区議としての経験が豊富な被告清田に、今後の区政の運営について示唆を受け(本件第一の目的)、また、被告清田が平成五年に区議在職三〇年表彰を受けていたことから、これを祝い、同人の区政に対する長年の貢献に感謝し、同人に対しお礼の意を表する(本件第二の目的)ために本件接遇を行ったものであり、右によれば、本件接遇は、区議会の議員との意思疎通を十分に図る必要があるとの考慮に基づき行われたものであり、区長の事務遂行上必要な範囲のものと認められる。また、出席者及び出席人数の面からみても、区長の補佐役である区長室長が同席したことは本件の接遇の趣旨及び目的に照らして相当であり、また、清田夫人を招待したことについても、本件第二の目的、被告清田の区政への貢献には清田夫人の内助によるところが大きく、同人自身地元において高い評価を受けていたと区において認識していたことからして、妥当性を欠くものとはいえない。もっとも、本件接遇は、料亭において一人当たり三万〇二〇二円相当のふぐ料理等を飲食させるというものであり、公費による飲食は必要最小限にとどめるべきであるとの法の趣旨に照らし問題がないわけではないが、他方、本件接遇が被告清田において区議会議員在職三〇年表彰を受けたことを祝う趣旨をも含むものであることからすれば、ある程度格式のある場所で接遇を行うことも、区長の配慮として常識的に理解できないものではなく、右程度の接遇を行うことをもって、区長の裁量の範囲を逸脱した不当に高額のものと断ずることはできない。
右のとおり、本件接遇は、区長が議会の議員との十分な意思疎通を図るため行われた事務遂行上必要な範囲内のものと認められ、その費用がやや高すぎるのではないかという問題があるものの、その趣旨及び目的、出席者、接遇の内容等を総合的に考慮すれば、これをもって社会通念上儀礼の範囲を逸脱した違法なものとまでいうことはできない。
原告らは、本件接遇の目的は、<1> 平成五年一二月に行われた前回の区長選挙において、被告清田が被告青木を支持し、被告清田の選挙地盤内の最繁華街であるみのり商店街周辺を自ら先頭に立って被告青木とともにパレードした等の選挙協力を惜しまなかったことに対し、被告青木が感謝の意を表し、また、<2> 当時区役所への就職が内定していた被告清田の次男を同席させ、区長である被告青木にお目見えの機会を与えることによって、被告清田の歓心を買い、被告青木がその保身を図るためであり、「打合せ」とは名ばかりで、酒食接待が本来の目的であって、具体的な区の事務事業と直接関係ないことは明らかである旨主張するが、本件接遇の目的は前記2(二)のとおりであると認められるのであって、右認定を覆し、原告らの右主張を認めるに足りる証拠は全くないから、これを採用することはできない。
三 本件費用が支出された手続が適正であるか否か等について
1 本件費用が支出された手続については、前記第二の一3、4に記載し、前記二3(一)(3)及び(4)に認定したとおりである。
2 原告らは、本件費用は食糧費から支出されているが、本来は区長交際費から支出されるべきであり、正当科目からの支出を義務付けている法二二〇条一項に違反する旨主張するので、この点について検討する。
食料費とは、各種会議用(宴会用を含む。)、式日用又は接待用の茶菓・弁当、病院・療養所等の患者食糧、宿泊所・保育所等の賄料、非常炊出賄等、行政事務、事業の執行上の直接の必要に基づいて費消される経費である。一方、交際費とは、地方公共団体の長又はその他の行政機関が当該地方公共団体を代表してその利益を図るべく公の交渉を行うために必要とされる経費である。
本件についてこれをみるに、本件接遇は、確かに、被告清田が議員在職三〇年表彰を受けたことを祝い、同人の長年の区政への貢献に感謝するという目的(本件第二の目的)があり、これは、区長としての交際とみることができなくはない。しかしながら、本件接遇の目的はこれに尽きるものではなく、被告青木が、区長として以後の区政の展開を図っていく上で様々な人の意見を聞くことが大切であるとの判断に基づき、同区の議員としての経験が豊富な被告清田から、今後の区政の運営についての示唆を受けようとしたという目的(本件第一の目的)もあったことは、前記二2(二)に認定したとおりである。そうすると、本件接遇は、区長の交際としての性格を有するにとどまらず、区の事務事業に属する区政懇談会としての性格を多分に有するものであり、両者はこれを截然と区別することのできないものというべきであるから、本件費用は、一体不可分のものとして、区の事務の執行上直接に費消される経費とみるのが相当であって、これを食料費から支出したことに何ら違法な点はないというべきである。
したがって、原告らの右主張は採用できない。
3(一) 原告らは、公金を支出するに先立って支出負担行為の原議を起こして決裁をとることは法二三二条の四第二項及び各地方公共団体の財務規則が明定する会計の基本的なルールであり、本件費用の支出に当たり、事前の支出負担行為を省略し、公金を支出した後に遡及した日付けで関係書類を作成し、決裁を受けているものとすれば、それ自体重大な法令違反であり、右支出は違法というべきである旨主張する。
しかしながら、本件費用の支出に先立ち、本件支出原議が起案、決裁され、会計法規に則り、支出命令権者であった南部室長の支出命令に基づいて収入役が右費用を支払ったことは、前記第二の一3、4に記載し、前記二3(一)(3)で認定したとおりであり、右支払に先立ち、支出負担行為を省略した旨の原告らの右主張は、その前提において理由がない。
(二) もっとも、本件では、前記二3(一)及び(4)で認定したとおり、本件接遇の後に、本件支出原議等が日付けを遡らせて作成、決裁されており、しかも、各起案文書等には、本件接遇の実際の出席人数が「四名(及び運転手二名)」であったにもかかわらず「五名」と記載されており、かかる点が財務会計法規に違反し、本件費用に係る支出が違法となるのではないかが問題となりうるところである。
すなわち、法及び区の財務会計法規上、飲食費等の支出については、<1> 特定の内容の会合を開催し、かつその経費を支出することの意思決定(原義の決裁)、<2> 支出負担行為の意思決定及び支出負担行為の実行、<3> 支出命令、<4> 支出という手続が履践されなければならないものとされているところ、これは、地方公共団体による公金の支出が恣意的に行われたり、不正行為が行われたりするのを防止するためのものであるから、右の手続は厳格に行われるべきであり、右支出に係る会計書類を日付けを遡らせて作成したり、あるいは、これらに実際と異なる人数、単価等を書き込むことは、財務会計上不適正な処理として許されないものといわなければならない。もっとも、飲食店での飲食を伴う会合、接遇の場合で、会合、接遇を実際に行ってみなければ、支出すべき金額を確定することが困難と認められる特段の事情がある場合には、右<2>の支出負担行為に係る会計書類(兼用支出命令書の請書部分、物品購買決定通知書)を右会合、接遇が行われた後に日付けを遡らせて作成するのもやむを得ない面があり、これを直ちに違法と断ずることはできない。これに対し、右<1>に係る会計書類(支出原議)は支出すべき費用の予定額等について担当者の事前の決裁を受けるためのものであるから、右の特段の事情が存在する場合でも、これを日付けを遡らせて作成するなどは許されないものというべきである。
本件についてみると、前記二3(一)(3)で認定したとおり、本件接遇を行うに先立ち、区の担当者は、宮代商事に料理等のおおよその金額、内容等を連絡して茶寮一松の本館を予約したが、本件接遇が茶寮一松での飲食を伴うものであったことから、本件接遇を実施した後でなければ飲食代金額を確定することができないといった事情があり、本件接遇が実施された平成六年一一月二二日以後に、宮代商事から提出のあった本件請求書部分及び見積書の人数や金額を基にして、本件接遇の日より前の日付けで、本件支出原議(同月一六日付け)及び本件物品購買決定通知書等を作成し、右各文書に従って、本件費用の支出手続が行われたものであり、右の経緯に照らせば、本件兼用支出命令書の本件請書部分、物品購買決定通知書が本件接遇後に日付けを遡らせて作成されたことをもって違法ということはできない。また、本件支出原議を本件接遇後に日付けを遡らせて作成し、決裁手続が行われた点は財務会計上不適正な処理といわざるを得ないが、右の事情に加え、右支払金額が当初のおおよその予定金額を大幅に上回ったなどの事情は一切うかがわれず、また、その後の前記<3>及び<4>の会計手続は適正に行われていることをも考慮すれば、右の財務会計上の瑕疵は軽微なものというべきであり、かかる瑕疵があることをもって、本件費用の支出までが違法となるものということはできない。
また、参加人数を「五名」と記載した点についても、実際の出席者人数を偽るものであり、財務会計法規上不適正な処理といわなければならない。しかしながら、右の会計処理によって、支払合計額が変わるものではなく、単に内訳が変わるにすぎないことに加え、〔証拠略〕によれば、そもそもそのような取扱いになったのは、茶寮一松の本館が、その独自の判断で運転手の弁当代を別館に対し立替払いをした後に、本館から南部室長に対し右立替金を含めて一枚の請求書で処理したい旨連絡があったところ、同人は、立替金は食料費から支出できないとの理解の下に、手続が煩雑にならないようにとの配慮から、運転手二名分の弁当代を本件費用に含めて一つの請求書で処理すればよく、そのためには参加人数を一名増やして調整すればよいと考えたためであることが認められ、これらの事情を考慮すれば、右財務会計上の瑕疵は軽微なものというべきであり、かかる瑕疵があることをもって、本件費用の支出までが違法となるということはできない。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)